今回は、文化大革命の中で多感な10代を過ごした女の子の自伝的小説だ。
そもそも人間は生まれる時代は選べない。
といいつつ、生まれたくない時代をあげるなら
真っ先に文化大革命の時代を思い浮かべる。
「ワイルドスワン」の影響である。
全ての価値観がひっくり返る過酷な描写に
「絶対に文革の時代には生まれたくない」と
震えながら読みました。
それ以来「文革小説」を避けていたんですが、
「睡蓮の教室」はタイトルと表紙が気になって
読み始めた。
目次
文化大革命下、身分違いの友情が花開く
あらすじ
1972年、文化大革命下の中国。
ヒロイン「水蓮」は上流階級出身のお嬢様。
文革が起こり、外科医の父は地方追放に、
大学教授の母は再教育収容所に収容されることに。
12歳の水蓮は、母と一緒に収容所で暮らすことに。
そして、収容中の大学教授たちから一流の学問をマンツーマンで学ぶ。
退屈な日々の慰めは、睡蓮の浮かぶ池のほとりで、
学んだ知識をもとにカエル相手に
架空の講義をすることだった。
このエピソードからきている。
やがて文革運動はいったん下火になり
「水蓮」と母は北京に復帰する。
「水蓮」たちはまた上流階級(第1階層)に返り咲いたのだ。
学校に戻った水蓮は
最下層の親友「張金」と再開する。
貧しさゆえに蔑まれる「張金」を
最優等の地位に上げようと
「水蓮」は勉強とスポーツを教える。
しかしみすぼらしい外見のため
「張金」は級友からバカにされっぱなしだ。
何をやっても変わらない身分の差に
「張金」は絶望を深めていく。
欺瞞と差別に満ちた時代を懸命に
駆け抜けた少女たちはどんな運命をたどるのか。
文革後オランダに移住したルル・ワンの
野心的自伝長篇。
モデルになった親友がいるんだろうな。
その親友はいまどこで生きているんだろう?
著者ルル・ワンのプロフィール
1960年北京生れ。北京大学で英米文学を専攻。
26歳のとき、オランダに渡る。
以後マーストリヒト大学で中国語を教え、
翻訳業に励むかたわら、小説作法を学ぶ。
1997年、『睡蓮の教室』で小説家デビュー。
オランダ語で書かれた本編はベストセラーとなり、
ノニーノ国際文学賞も受賞。
自伝的小説なので、ヒロインの「水蓮」は著者本人だ。
知的で美しいヒロインの面影がうかがえる。
小説のようなラストになったのだろうか・・・?
改めて「文革」は怖いけれど、
すり抜けた特権階級もいた
文化大革命の何が怖いって、
10年以上続いた「下克上」である。
知的インテリ層がある日から徹底的に弾劾され、
人間としての尊厳を踏みにじられる。
毎日何時間も罵倒され、命を縮めていく。
「ワイルドスワン」では、
大多数の知識階級が弾劾され、
辛酸をなめた印象があった。
今回「睡蓮の教室」を読むと、
知識階級・上流階級の中でも
文革をうまくすり抜けた特権階級が存在した。
文革の最中でも、豪奢なマンションに住み、
レストランで食事をし、
お洒落な洋服を身につけている。
(ヒロインの「水蓮」はそんな特権階級を軽蔑しながらも、
お洒落に憧れる少女らしい心の揺れを感じる。)
軍や党の要職にある人達は
文革でダメージを受けなかったようだ。
教育者や医者・僧侶などの知識階級が主に
文革のターゲットになったようだ。
「睡蓮の教室」には、上流階級から見た
当時の風俗が記録されている。
文革の時も、ゆうゆうと暮らしていた特権階級は
その後もずっと特権を握ったように思えるのだ。
ここから少しだけネタバレ
貧しいために虐げられる「張金」は
絶望のあまり、非行グループに入る。
頭の回転が速い「張金」は効率的な盗みを発案。
非行グループのリーダーに出世する。
お金を手にした「張金」は
派手な洋服を身にまとい、
クリームで顔をピカピカに光らせ
学校に毎日出席する。
もう学校で勉強する必要はないのに
彼女が学校にやって来るのは
親友に会うためではなく
好きな男子生徒を眺めたいからだった・・・。
強盗団のリーダーになっても
心は乙女なのですよ。
その乙女心が踏みにじられた時
「張金」はスケールの復讐を誓う。
そこからの復讐劇は荒唐無稽で
壮大な企みでした。
追加ネタなんじゃないか・・・と感じるくらい
違和感がありました。
実際はどうだったんだろう。
「貧しさ」をバカにされるのもつらいが
「乙女心」を踏みにじられると
人間は最も傷つくのだ。
睡蓮の教室を読んだわたしの感想だ。
こんばんは。
枕を新調しようと思い、ヒルネさんの寝具記事を読みにやってきました。
相変わらず、素敵な書評ですね!
読書好きで小説好きな人が書いているのがわかるというか、愛にあふれているというか^^
私は本作を読んでいませんが、ヒルネさんの文章から「重厚な小説が唐突に韓ドラ仕立てになった」ような印象を受けました。ふふふ。
いろいろな方の書評は参考になりますね。ありがとうございます。
今、吉野朔実さんが徹夜で読み耽った『チャイルド44』を借りています。
葉桜さん、こんばんわ(^^) そうなんです、「睡蓮の教室」面白いのですけれど、「重厚な小説が唐突に韓ドラ仕立てになった」ような・・・まさにそれです!!
えーっ、そんな風に復讐する?とかなりビックリしました。まさに韓ドラっぽい。
書評もそこに触れられたものもあって、そう感じた人も多かったのではないでしょうか。
「チャイルド44」面白かったです。わたしも読破するまで読み耽っちゃいました。徹夜本ですね。
続編をまだ読んでいないのを思い出しました。借りてみようかな。