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マーガレット・アトウッドの代表作を読んでみた
カナダの国民的作家、稀代の物語作家のマーガレット・アトウッド。
「侍女の物語」が面白かったので、
ブッカー賞・ハメット賞受賞作「昏き目の暗殺者」を手にとった。
マーガレット・アトウッドで最初に読んだのは「侍女の物語」
Huluで話題の海外ドラマの原作だった。
こんな荒唐無稽な設定、よく思いつくなーと
期待にブルブル震えながら読んだ。
期待以上に
侍女の物語は面白かった。
700頁ちかい骨太の大長編。
謎がなかなか明かされなくて
読者をジリジリさせる構成ですが
ラストで一気に解消される。
ラストの復讐劇はカタルシスだ。
没落する名家の姉妹。
妹の死は事故だったのか。
あらすじ
1945年、妹のローラは車ごと橋から転落して死んだ。
あれは本当に事故だったのだろうか?
自殺だったのではないか。
年老いた姉アイリスは80歳を超え、
家族の歴史と姉妹の交流を手記として書いていく。
ボタン工業で財をなし町いちばんの名家に生まれた姉妹。
母が幼少期に亡くなり、すべての歯車が狂っていく。
家政婦リーニーが愛情を込めて世話をするが、父から育児放棄された姉妹。
労働運動の激化で、家業は危機に陥る。
事業を救う約束で、アイリスは18歳で青年実業家グリフェンと結婚する。
しかし夫は約束を守らず、父は不審死をとげる。
妹・ローラは夫グリフェンに反発。
学校を辞め、心を病み、精神病院に強制入院させられる。
アイリスはちょうど妊娠をしていたが、
同時にローラも誰かの子を妊娠していた。
夢想家少女ローラの相手は誰だったのか。
革命運動家のアレックス?それとも?
ローラの事故後、アイリスは婚家から出る。
数年後アイリスは義理の姉に娘エイミーを取り上げられ、
愛に飢えた娘は放蕩生活の中で若くして死ぬ。
孫娘のマイエラには遭えず、アイリスは孤独の中にいる。
娘も取り上げられ、孤独の中で毒舌を吐く
お嬢様育ちのアイリスが世間を学び、
シニカルな視点で一族の没落を記録する。
これが本筋のストーリーだ。
妹ローラは小説「昏き目の暗殺者」を遺す
アイリスはローラの死後、ローラの遺作「昏き目の暗殺者」を出版。
小説では、身分の違う男女の密会が描かれる。
男は官憲に追われる活動家、女は上流階級の人妻だ。
彼らは場末のホテルや隠れ家で忍び会う。
男は寝物語にSF小説を聞かせる。
「昏き目の暗殺者」はその中の登場人物だ。
彼らは幼い頃に奴隷として細かい毛織物を編まされる。
過酷な労働により8歳で失明する。
その後は盲目の暗殺者として育成されるのだ。
危うい不倫の恋に
荒唐無稽なSFが混じり、意外に面白い
シニカルで骨太の老女の手記と比べると、
未熟な筆致が書き手の若さを感じさせる。
今やカルト的な人気を集める「昏き目の暗殺者」
密会する恋人たちは誰がモデルなのか。
主人公の女性は早逝したローラ?
男性は?活動家のアレックスか?
この小説の作者は本当にローラなのか。
4つのストーリーが同時進行
この物語がややこしいのは
4つのストーリーが交互に語られる。
①老女の回想が織りなす手記
②恋人たちのロマンス
③「昏き目の暗殺者」のSF
④親族たちの新聞記事
4重の入れ子構造なのだ。
ミステリ、ファンタジー、SF、ロマンスと
多くの要素が入り交じり、
多重層の物語として成立している。
各物語が少しずつ進むが、
一番気になる「ローラの死の真相」はなかなか語られない。
このまま謎が分からないまま終わったらどうしよう・・・と疑う気持ちがいっぱいになった。
正直読み進めるのにエネルギーが大量にいりました。
でも心配ご無用。
最後にすべての秘密が明かされる
最後の100ページまで来て
物語の秘密は一気に明らかになる。
アイリスの手記に、小説「昏き目の暗殺者」が挟まれる意味も腑に落ちる。
ブッカー賞・ハメット賞のダブル受賞も納得だ。
ネタバレしない範囲で書いておく。
令嬢アイリスの壮絶な復讐劇
復讐を成し遂げたものの
アイリスも取り返しのつかない傷を負う。
我が子と引き離され、孫にも会えず孤独だ。
姉妹という血族の愛憎
現実を受け入れる姉「アイリス」と夢想家の「ローラ」
血をわけた姉妹だからこそわかり合えず
傷つけ大事なものをなくしてしまう。
「昏き目の暗殺者」は誰?
英語のタイトルは THE BLIND ASSASSIN
直訳すると「盲目の暗殺者」になるが、翻訳者はあえて「昏き目の~」とした。
「昏い」は「日が暮れて周囲がぼんやりとはっきりしなくなる状態」の意味。
見えるはずのものが見えなかったアイリスを指して
あえて「昏き~」にしたのかな。
アイリスは死後の逆転を狙う
孫娘のマイエラに生きているうちには
会えそうもないアイリス。
マイエラに向けて手記を書く意味は・・・?
骨太の物語で、読み手のエネルギーもかなり要求される。
その分、最後に壮大な復讐劇が明かされる。
カタルシスを感じるラスト。
読みごたえありでした。