【感想】「罪の声」犯罪に利用された子供たち。今どこで生きているのか。
なんでかな・・・?
調べてみたら、
映画「罪の声」が公開中だからだ。
ふーん。なるほどねぇ。
小説「罪の声」を読んだ後、
わたしは実際のグリコ・森永事件をおさらいしたくなった。
何冊か読んだうち面白かったのは「闇に消えた怪人」だった。
目次
「闇に消えた怪人」一橋文哉
覆面ジャーナリスト「一橋文哉」のノンフィクション。
以前読んで面白かった記憶があって、
再読してみた。
江崎グリコ社長の誘拐から、
その後の怪人21面相の挑戦状、
その後ハウス・森永・丸大食品等まで広がりつつ
いきなり終息宣言が出たところまで
テンポ良くたどっていく。
これを読めば、グリコ・森永事件の流れが理解できる。
当時のグリコが抱えていた暗い内紛や
株式ブローカーの暗躍、
元警官が関与していた可能性、
前半と後半で犯人グループが入れ替わった可能性、
謎の組織Xの関係者が多数関係する事情、
最大の容疑者だったM組長を落とせなかった経緯など
この本がいちばん裏事情も分かりやすくまとまっている。
とはいえ・・・副題の「グリコ・森永事件の真相」は“煽り”です。
いろいろな可能性を提示するものの、
真相にたどり着かないまま終わる。
それだけこの事件の闇は深い。
この本には「21面相の挑戦状」が何通も載っている。
挑戦状を書いた犯人の文章力に唸らされる。
小気味よく皮肉をちりばめ、
暗いユーモアを効かせ、恫喝している。
犯人グループの中にコピーライターが
参加していたのでは?という疑惑も当然だ。
挑戦状は上手な”関西弁”で書かれているが、
一般的に関西人はふつう関西弁のままの文章は書かない。
(確かにそう言われればそうだ。)
逆に、関西人以外がカモフラージュ目的で
書いたのではないか・・・?という推測を著者はしている。
そんな発想は自分では思いつかなかった。
挑戦状の文章に久しぶりに触れると
おふざけの中に犯人の怨念がにじみでている。
あの文章を書いた人間はいまどうしているだろう?
生きているのだろうか。
NHKスペシャル
未解決事件 グリコ・森永事件
捜査員300人の証言
「闇に消えた怪人」で事件の流れを頭にたたき込んでから
詳細な裏話を集めたNHKスペシャルの文庫本へと進む。
キツネ目の男はなぜ捕まらなかった?
事件当時の捜査員はすでに引退しているので
訪ね歩いて、当時の状況を聴いていく。
未解決事件ということで、
捜査員たちの口は堅いが
少しずつ現場の状況が語られる。
有名なキツネ目の男に関する疑問も追究している。
「なぜキツネ目の男にその場で職務質問しなかったのか?」
現場の捜査員が怪しいと思いつつも、
職務質問OKの指示が上から出なかった・・・。
泳がせたまま追跡するが尾行は撒かれてしまい、その後キツネ目の男は姿を消す・・・・。
上層部は「職質で突っぱねられたら、逮捕する理由がつくれない」という判断だった。
そもそも「現金授受の現行犯で捕まえる」のが基本方針だったし。
それでも・・・と現場は悔しかっただろう。
脅迫テープを現代の技術で再検証
NHKスペシャルならではの企画で
現代の技術で当時の証拠を検証し直している。
1つは、青酸入り菓子をスーパーに置いた男のビデオテープ。
こちらは元のテープの画質が悪すぎ、
現代の技術でも修正不可能という結果に。
2つ目は、脅迫テープの声の検証だ。
事件当時の分析では、30~40代の女性と男の子の声と断定された。
合計2人の声だとされていた。
ところが。
再検証の結果、意外な結果が出てきた。
30~40代の女性だとされた声は、
小学校6年生から中学生の女子の声だった。
声帯の振動の波形からそう分析された。
そして、男の子の声も、声紋分析すると
2人の男子だと判明。
脅迫テープの声は、子ども3人の声だったのだ。
なるほど・・・。
子どもが3人も関わっていたのか。
”子ども3人の声”になっていたのか
脅迫テープの子どもたちも今では40代になっているはず。
彼らは今どうしているんだろう。
真実を知らずに利用され、自分は忘れているのか。
それともずっと秘密を抱えて生きているのか。
「罪の声」のテーマはここでもずっと続いている。
改めて考える
グリコと21面相の裏取引はあったはず
数々の企業を脅迫した事件だけど、
はじまりのグリコ社長誘拐事件は他の事件とは違う。
挑戦状の文章も、最初と途中では熱量が違う。
犯人グループのグリコへの怨念を感じる。
グリコが消費者からの声に答える新聞広告を掲載して
すぐグリコへの脅迫は終了。
他企業へとターゲットが移る。
これはどう考えても、裏取引があっただろう。
新聞広告がメッセージとして利用され
まとまった金額を払ったとしか思えない。
犯人グループは途中で入れ替わった
この事件をモデルにした小説「レディジョーカー」「罪の声」でも
「犯人グループ」が途中で入れ替わっている。
それは犯人達の行動や挑戦状のトーンを知れば知るほど、
その結論にたどり着くからだろう。
当初は「グリコへの恨みを持った集団」だったが
途中から「手当たり次第に食品メーカーを脅す集団」に途中で変わっていく。
リーダーが変わっただろうし、
もしかしたら挑戦状を書いた人も変わったかも。
その事情は内紛でリーダーが粛正されたのか、
病気で倒れたのか・・・。
そこは想像でしかないけど、有力なのは内紛説だ。
だから、脅迫テープの子どもたちは
今も怯えながら暮らしているのかも。
犯人グループも不幸になっていそう
グリコから裏取引でまとまった金額を手にしたにしろ、
株価操作で大金を儲けたにせよ、
関わった人数は考えると多くなる。
(10人以上20人以下?)
大金だけど分割していくと
一生遊んで暮らせるほどではない。
おそらく「悪銭身につかず」ですぐ無くなったはず。
その後、また違う犯罪に手を染めたんだろうだろうなと想像される。
そう思っていたら、
”グリコ犯はその後、5億4千万円を奪い時効を逃げ切った「史上最大の銀行強盗」を行なった?”という本にたどりついた。
(おまけ)グリコ・森永事件「最終報告」真犯人
5億4千万円を奪い、時効を逃げ切り、史上最大の銀行強盗と言われたのが
「福徳銀行事件」だ。
内容の大半はグリコ・森永事件をおさらいした内容に留まる。
せっかくなら実行犯とされる人物が
当時どんな人達と組んでいたのかを探り
グリコ犯グループの実像に迫って欲しかった。
この本に期待したけど、肩すかしだった。
実行犯のプロフィールが分かっても
黒幕は見えてこない。
黒幕は今何をしているんだろう。
当時40~50代だとしたら・・・
もう生きていないかな。