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イ・ランは、ツンデレの美猫みたい。
甘やかして、幸せにしてあげたくなる
韓国の現代小説「フィフティピープル」が面白かったもので、
「韓国の今の小説」に興味を持った。
そうしたら、Amazonがおすすめしてきたのが、
イ・ランの「悲しくてかっこいい人」だった。
韓国のシンガーソングライターの
頭の中を綴ったエッセイだ。
イ・ラン/呉永雅 リトルモア 2018年11月16日 売り上げランキング :
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イ・ランは才能あふれるさみしがり屋の美猫みたい
イ・ランは、たくさん才能がありすぎる。
●シンガーソングライター(2017年最優秀フォークソング賞を受賞)
●映像作家(自分で脚本を書いて、監督もする)
●コミック作家(17才で家出した時に、漫画を書いて生計を立てる)
●エッセイスト
イ・ランはズルイ。
文章が上手くて、絵が描けるだけでも
充分なのに、歌も作って歌える。
イ・ランの声は透き通って、小鳥のさえずりのようだ。
イ・ランの文章で、キュンとくるところ
エッセイのタイトルが詩的でズルイ
シンガーソングライターだけあって、
エッセイのタイトルがしゃれている。
●NAVERで検索すると出てきます
●職業は無駄づかいする人
●わたしも魚だったかな
●わたしたちは仕事をしてから別れるよね
●わたしたちの仕事はダンスになる
●笠小帽をかぶる
(日本のお地蔵さんの帽子をかぶる)
●神様はかっこよくて愚かだ
●手話で罵倒したくて
●残りの人はそれほど好きじゃなかった
●猫と男にあった
●みんな、顔が大きくなる
●電脳化をお願い
●ありがとうって言わないと
●ひとりごとトレーニング
●素敵なコートだと言われたい
●食べて出す人生
●みんなが有名になればいいな
●この世に必要な人になれたら
●作り笑い
●消えるのだって簡単じゃない
●わたしたちは静かに歩いて帰っていく
訳者さんのセンスもすごいと思う。
タイトルを読んで、
どんな話だろうと惹きつけられる。
大きく違うオチに
ヤラレルことも多い
イ・ランは、日本との縁が深い
イ・ランは日本でもライブを開いている。
日本のミュージシャンやアーティストの友だちも多いみたい。
ネタで、日本の傘子帽をかぶって来日したこともある。
(お地蔵さんがかぶっている笠の帽子ね。)
そして、飼猫の名前は「ジュンイチ」だ。
日韓がこんな風に自然に距離を縮められたらいいのに。
♫「イムジン河」は、日本語で歌っている
イ・ランは、「愛情」が深すぎて、
反動でクールに残酷に振る舞おうとする
どのエッセイも秀逸で、コレ!という
1篇を選ぶのがむつかしい。
あえて、選ぶなら「死」について
書いた「そして、また問う」にしたい。
「そして、また問う」
イ・ランは、怖がりなのに、ストレートに問いかけてくる。
わたしは人がしちゃダメだと思うことをしようとする。
死について語ることだ。
シンガーソングライターとして、小学生に
作詞・作曲を教える授業でも、「死」について語り合う。
「ガチ」である。
こどもたちに触発されたように、
自分の「死への恐怖」も正直に綴る。
わたしは死ぬのがとても怖い。
人間という存在が最初から死ぬように作られているなんて、
あってはならないと思う。
寿命があるなんて、変だ!
「人間はいつか死ぬ」ことを受け入れているので、
そんな急に抗議されても・・・と一瞬思う。
だって話すこともできない木が
わたしより寿命がはるかに長いなんておかしい。
一瞬納得してしまう。
木よりも長生きできない人間って、
可哀相に思えてくるのが、
イ・ランの文章力だ。
死は突然訪れるかと思えば、
ゆっくりと近づいてくるから怖い。
だから、それが先にやって来る前に死んでしまいたい。
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わたしは自分の人生を愛している。
愛しすぎて執着しているから死が怖いのだろう。
自分の人生を愛しすぎているから、
死がやって来る前に、
死んでしまいたい。
大いなる矛盾。
反動で、極端に走りすぎだけど、
その気持ちも分かる。
家族との関係もそうだ。
わたしは十代で家出して以来、
家族とは会うことがなく、この先も親しく付き合うつもりもない。
いきなりの「突き放し」トークを浴びせる。
17歳で家出して、自分1人でがんばってきたんだもんね。
冷酷なようでして、その冷たさも愛情の裏返し。
子どものころは、家族だからという理由で
彼らを無条件に愛していたけれど、そのせいで
ぼろぼろになってしまうほどつらかったからだ。
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一番よく思い出すのは母のことで、
母のことをちょっとしか愛さないでいるなんてできない。
お母さんのことが好き過ぎる、イ・ラン。
愛が深すぎる故の反動だ。
今は、1年に1~2回しか会えなくて、
つらいと書いている。
面と向かっては、自分の気持ちを言えないんだろう。
その痛々しさに、ファンでなくとも手を差し伸べたくなる。
今、イ・ランは30代。
年を取ることで、家族との関係も変わってくるだろう。
イ・ランは今、「悲しくてかっこいい人」だ。
切れ味のいいカミソリみたいな横顔は
悲しい人ならではだ。