目次
50人分の「あやとり」ドラマ。つながる愉しみ。
「フィフティピープル」は
50人分のドラマが詰まった短編小説集。
韓国の若手作家のホープ、チョン・セランの小説で、
読み始めたら、うむむ・・と唸ってしまった。
”50人のドラマが、あやとりのように絡まり合う。”
ほら、こんな風に50人の人生が
身近に書かれている。
この似顔絵がまことに秀逸。
性格を表すルックスになっている。
(描き分けできる画力が素晴らしい。)
この似顔絵のおかげで、
この人たちが、身近にいる人に思えて、
グイグイひきこまれる。
「職業」が人間をつくるんだ。
登場人物は、OL・学生・医者・看護師・
遺体運搬人・元軍人・スポーツ選手・
建築現場の親方・元司書・ミュージシャン・
酒場のマスター・ベテランキャディー・
入れ墨師など、書き切れないくらい幅広い。
重要な節目で
人生を決めていく。
50人のドラマの中に、職業選択のドラマが見える。
悩みながら、自分の生き方にあった職業に
ジョブチェンジするエピソードが多い。
この話、職業紹介小説だと思う(笑)
読むと、知らなかった職業に興味が沸いてくる。
韓国社会の空気感も伝わる。
劣悪な労働問題、家庭内暴力、男性中心社会、
粗悪な教育改革、政府による重大事実の隠蔽も
話の端々に淡々と書かれている。
おとなりの韓国の社会も
日本と近い。
政府や社会の仕組みに
庶民が怒りつつも、
あきらめている感じ、
日本と同じ閉塞感を感じるな。
とはいえ、韓国の庶民は強い。
みんな健気に生き抜く決心だ。
日本人はどうだろう。
物わかりが良すぎるような気もする。
どん底の人生も、幸運をつかんだ人生もある
学校や病院、街角や映画館で、
50人の人生が少しだけ交わっていく。
まさに“あやとり”のように
点と点で絡み合う。
世の中の人たちは
影響を知らず知らずのうちに
与えあい、生きていってる。
ひょんなところで、
人間は点でつながってるんだろうな。
50人の人生はさまざまだ。
ドン底の辛さを経験中の人もいる。
実の母が癌で余命数ヶ月の花嫁。
弟から家庭内暴力を受けている姉。
最愛の娘が殺されてしまった母。
つらい・つらすぎる。
ドン底から抜けだす途中の人もいる。
今は、ドン底から幸せになった人もいる。
「生きていく」のは大変だ。
でも、前を向いて生きていくしかない。
50人のドラマを一緒に生きると、
みんなそれぞれ健気で愛しい。
登場人物全員が
幸せになって欲しいと思う。
こんな小説初めてです。
ぜひ、手に取ってみて欲しい。
最後の映画館のシーンが面白いから。
マイベストは、司書のハンナの話。
司書だったキム・ハンナの話は、
ドラマチックな展開はありません。
ハンナは司書だった。
司書だったと過去形で言うのはなんとなく悲しい。
幸か不幸か、ハンナは大好きな「司書」の職を
続けられず、別の職業につきます。
ただ、どんな職業についても、
「司書」として生きるハンナの姿勢に
胸を打たれる。
ハンナのように、
自分の好きな本や物語を
おすすめしたい。
物語のトキメキを広める
歯車になりたいと思う。
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