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【感想】「あちらにいる鬼」愛人と妻と嘘吐きオトコ。人を愛するのはおそろしい。

目次

瀬戸内寂聴と井上光晴、その妻をめぐる
不可思議な三角関係

妙になまめかしい女性のヌードと
帯の文章に目が釘付けになる。

作者の父 
井上光晴と
私の不倫が始まった時、
作者は五歳だった。
 瀬戸内寂聴

出家するまでに、
恋多き女性だった瀬戸内寂聴と、
不倫相手の作家・その妻の物語。

不倫相手の子どもが長じて作家となり、
彼らの三角関係を書いたのだ。

身内だから書けたかもしれないが、
正直なところ、
こんな泥沼へよく踏み込めたな。

瀬戸内晴美(寂聴)  → 長内みはる
井上光晴       → 白木篤郎
井上光晴の妻     → 白木笙子

物語は愛人の作家・長内みはると
妻・笙子の2人の視点から進んでいく。

42歳の作家みはるは、地方の文芸イベントで
白木篤郎と同行し、
熱っぽく距離を詰めてくる彼を最初は疎ましく感じる。

それなのに何度か会ううちに男女の仲となる。
みはるは白木篤郎の小説に憧れる。
白木のように小説を書きたい・・・。
みはるは白木に毎月小説をみてもらい、指導を受ける。
彼は恋愛対象でもあり、小説の師匠でもあった。

妻・笙子は白木とみはるの仲に気づくが、
何も言わない。
以前からの女遊びがまた始まったと思いつつ、
みはるを憎む気持ちは不思議と湧いてこない。

そんな関係は8年も続き・・・・
50歳を超えたみはるは「出家の決意」を白木に伝えるのだった。

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ヒルネ
ヒルネ
出家してからも3人の不思議な関係は続く。

出家後、男女の関係はなくなるのだが、
不可思議な三角関係は続く。

実話に基づいたこの話を読むと、
不倫スキャンダルについて
他人が「不倫は許せない」なんて
上っ面な話をするのは浅いなぁ・・・と思う。

人を愛するのはおそろしい。
喜びもあるけど、おそろしい。

一言でいうと、そんな小説だった。

作家白木篤郎のゲスっぷりがすごい

実の娘が描く父の浮気エピソードは
上品な筆致であるが、
正直ゲス野郎である。

井上光晴氏の写真
(毎日新聞からお借りしました。)

Interview:井上荒野さん 破格なる人の人間模様 『あちらに ...

浮気をしていると言わないが、
妻に浮気を感づかせる行動をわざとする。

浮気相手の若い女が自殺未遂で入院。
妻にお金を託してお見舞いに行かせる。
「俺が行くとまたみょうなふうになるから」

文学教室の生徒にも手を出す。
日本各地の教室にそれぞれ相手がいた。
思い詰めた浮気相手の主婦が家出をし、
白木の家に上がり込む。

みはるの他にも不倫相手がいる。
新しい彼女を連れて、
みはるの仕事場にわざわざ来る。

ロシアから来日した小説家ニーナにも手を出す。
出国の見送りに、みはるを同伴する。
ニーナの別れのプレゼントは
「ニーナのズロース」だった・・・。

ヒルネ
ヒルネ
ゲスすぎて笑ってしまう。
ここまで来ると、
愛嬌になるかも。

妻は、篤郎の昔の恋人に愚痴を言う。

篤郎さんってひとは、どうしてああ嘘ばっかり吐くんでしょうね。

昔の恋人はこう答える。

嘘を吐かなかったら、篤郎さんじゃなくなってしまうでしょ。
彼は嘘を吐かないと生きていけないのよ。

彼は自分の出生からして嘘を吐いている。
嘘を吐くのも、
女遊びをするのも、文壇で孤立していた故の
承認欲求だったのかとも後年、瀬戸内寂聴は語る。

そして嘘を吐き続けても、
女遊びを続けても、
妻は別れることなく、最後は同じ墓に入ることを望む。

ちなみに、妻は賢く美しく文才もあり、
篤郎と別れてもおそらく
自立してやっていけたと思われる。

それでも、別れなかった。

そして、夫の死後はかつての愛人と
夫の思い出話を和やかに語りあう。

不倫がいいとか悪いとかじゃなくて、
愛とは重くて、おそろしい。

余談:瀬戸内寂聴の「花芯」
今読んでもぶっ飛んでいる

わたしは瀬戸内寂聴が正直なところ苦手だ。
彼女が甲高い声で話す様子や
ニヤッと笑った顔を見ると、不気味に感じる。

今の世間では「可愛いおばあちゃん」とか
「御意見番的な尼僧さん」
「数多の恋愛を経験して悟った人」として
好意的に受け止められているが
わたしには「愛欲ドロドロ妖怪」に見える。

ヒルネ
ヒルネ
気を許してはいけない。

そうはいいつつも、彼女が若い頃に書いた
「花芯」はいま読んでもぶっ飛んでる。
(褒めてます。)

花芯のあらすじ
「きみという女は、からだじゅうのホックが外れている感じだ」。
親の決めた相手と結婚した園子は、ある日突然、恋を知った。
相手は、夫の上司。そして……。
平凡な若妻が男性遍歴を重ね完璧な娼婦になっていく姿を描き
発表当初「子宮作家」のレッテルを貼られ
文壇的沈黙を余儀なくされた問題作。

これを書いたら「非難囂々」だと分かっていても書く。
本能として書かずにはいられない。
パンクである。

彼女はやっぱり愛欲ドロドロ妖怪である。
気を許してはいけないよ。

余談:装丁は鈴木成一デザイン室だった

書店の店頭でも、この装丁はひときわ目立っていた。

アンニュイな雰囲気の女性のヌード。

装画は恩地孝四郎「ポーズの内 憩」

ブックデザインは、鈴木成一デザイン室でした。
この小説にこのデザイン、ピタリと嵌まっている。

鈴木成一「装丁を語る」衝動的買いした「私の男」は鈴木氏の作品だった鈴木氏が自分の作品を語る。 個人美術館をじっくり巡るオトナの遠足みたい。 装丁を語る。 ...
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ヒルネ
ただいまセミリタイア中。 やりかったことをすることで、自分のこれからを模索中。 カゴ編み、ひとりめしを研究中。おばあちゃん犬のシズカと暮らしてます。

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