目次
大阪らしい群像小説
だるい。
生温かく不幸せ。
「ビニール傘」、強烈に大阪らしい話やった。
名もなき若者たちが
大阪でグダグタと生きる話。
リア充はいなくて、みんな澱んでる。
うっすらと不幸な感覚がまさに大阪。
この感覚が伝わる。
文章のチカラが半端ない。
社会学者の「岸政彦」先生が描いた小説なんだけど、
大阪の生温かい不幸感をバッチリとらえてる。
大阪って、陽気とか人情的な面が注目されるけど、
ホントはうっすらと澱んでる。
みんながダラダラと不幸な感じ、
よくぞ書いてくれました。
大阪=陽気なんてイメージがあるかもしれないけど、
大阪は、生温かく不幸な街なのだ。
珍しい文章構成に戸惑う
大阪の若者たちを描く「ビニール傘」は
面白い文章構成だ。
主人公が途中でいきなりチェンジする。
群像劇が小説になってる。
「俺」とか「私」の一人称で語りつつ、
語り手が替わっていく。
最初は、
『タクシー運転手』の視点だったのが
↓
いきなり『ビルの清掃員』になり
↓
次は『コンビニ店員』
↓
いつのまにか『日雇い労働者』
↓
そして『派遣の工場労働者』
・・・と交代しながら続く。
共通項は、みんな不幸せなこと。
みんなだるく生きている。
最初は語り手がチェンジしまくるのに戸惑った。
「あれ?」と何度も読み返す。
慣れてくると、どんどん増殖するアメーバになったような気分。
ちゃんと説明しようとするとややこしい。
実際に読んでもらうと
「ああ、なるほど」と体感できる。
ラストシーンだけ幸福感に包まれる
最後の語り手は、和歌山の実家に出戻ってきた女の子。
美容師になりたくて大阪に出たけど
仕事も恋もうまくいかない。
美容師を辞めて、ガールズバーで働いた。
それにも疲れ、実家に戻ってきた。
実家で布団にくるまって夢を見る。
夢の中だけ幸せがある。
「ビニール傘」のみんなは生温かく不幸だったけど、
読んでよかった。
おすすめです。
実はこの本、会社を辞める時に読書クラブのメンバーから
餞別にいただいた本でした。
「たまには大阪の空気を思いだして下さい」って。
自分だったら選ばない小説だったから新鮮だった。
大阪らしい濃い小説だった。
ギクッとするフレーズがいくつか
「ビニール傘」のふとした文章の中に、
「あぁ、分かる」と共感する言い回しがいくつもあった。
なんとなく、誰かの話をダラダラと聞きたいときあるねぇ。
すっぴんの時は眉毛もまつげもなくなって、
目も一重になっていて、疲れ切った、若いのに皺だらけの、
悲惨な顔になっていて、俺はとてもきれいだなと思う。ずれた布団の間から、風呂に入っていない女の、
甘い匂いがのぼってくる。
悲惨な顔なんだけど、「きれい」と思う。
「風呂に入っていない女の甘い匂い」とか・・・・もぅ・・・。
エロい不幸がここにある。
もっといろいろな人と付き合ったら、
そのうち幸せになれたんだろうか。
でも、誰かと一緒にいるあいだは、
ほかの誰かと一緒にいることができないから、
ある人と付き合っているあいだに、
時間ばかりが経っちゃって、そうしているうちに
私を幸せにしてくれる人は、
とっとと誰かと付き合っちゃうんだろう。
これ、女の子が一度は思うことじゃないか。
こんなこと、大学教授の男性がどうして書けちゃうの?
びっくりしたなぁ。
そしてラストの幸福な夢のシーン。
死んだ愛犬が夢に出てくる。
犬は、月に照らされた広場の片隅に、
自分のお気に入りの寝床があるのを見つけた。
帯の推薦文もいい
「パッチワークの縫い代」
「ギシギシとした手触り」
「腹に響く没入装置」 上手いこと言うなぁ。
「明日をも知れぬ不安感」
「あてどない日々」分かります。