目次
「微笑みの国タイ」とはぜんぜん違う。
「毒舌で煮込まれたスープ」みたいな短編集。
「出会い系サイトで70人と実際に会って~」でお薦めされてた本。
2005年に「観光」でデビューして
英米で激賞され、注目作家となった。
そして「観光」の後、筆が止っているらしく、
消息不明となっている謎の作家でもある。
タイに旅行で行ったことはないし、
ドキュメンタリーで観たこともない。
どうかな、面白く読めるかな。
読んでみたら、それは杞憂だった。
1つずつが濃い味わいの闇鍋スープみたいだった。
どんな闇鍋スープだったか、
印象を書いてみた。
ガイジン・・・甘酸っぱいスープ
タイには多くの国から観光客が来る。
タイ人からすれば、フランス人・イタリア人・日本人・オーストラリア人・中国人も
すべて”ガイジン”だ。
とはいえ、この短編のガイジンはアメリカ人のことだ。
民宿を営むママはガイジンが嫌いだ。
なぜならママは、アメリカ人と恋に落ち
ボクを産んだけどパパに捨てられたからだ。
ママは毒舌だ。
セックスと象だよ。あの人たちが求めているのはね。
詳しく解説すると、こうなる。
あの人たちが本当にやりたいのは、
野蛮人のようにばかでかい灰色の動物に乗ること、
女の子の上で喘ぐこと。
そしてその合間に海辺で死んだように寝そべって
皮膚癌になることなんだよ。
辛辣で、面白い(^o^)
ママの教えにもかかわらず、
ハーフの僕はアメリカに憧れる。
ペットの子豚にクリント・イーストウッドと名付け、
溺愛している。
僕はアメリカの女の子にも憧れる。
ガイジン娘に恋をしては失恋を重ねる。
どうしようもないじゃん。
どうせ叶わないけど、好きになっちゃうんだもん。
諦めながらも夢を見る。
そうじゃないと
若者は生きていけない。
切ないけれど、若さゆえの暴走にハラハラした。
ガイジンに負けるな。
観光・・・・・絶望の塩辛いスープ
美しい海辺のリゾートへ旅行に出かけた失明間近の母とその息子。
過労による偏頭痛からはじまり、お金がなくて手術もできず
10週間後には失明する母。
息子は遠方の職業大学への入学を控えているが、
失明する母を置いていけない・・・。
離れ離れになるまえにと、
アンダマン諸島の絶景を2人で眺める旅にでる。
進学を迷う息子に母は言う。
わたしは死ぬわけじゃない。ただ目が見えなくなるだけ。
そのことをよく覚えておいて。大きな違いだから。
まったく違うわ。
いくら善良な人たちが毎日のように失明したり、死んだりしていようとね。
これから失明してしまうのに、
たった1人の身内に側にいてほしいだろうに
気丈に言い聞かせる母。
絶望しながらも、残された視力で美しい海を眺める母の姿。
”光を観る” 題名に深い意味が込められていた。
闘鶏師・・・血の味がするスープ
父親はかつて常勝の闘鶏師だった。
顔役のドラ息子を完膚なきまでに負かしたことで、人生の流れが変わってしまう。
ドラ息子が金で連れてきたフィリピンの鶏に負けつづけ、丹精して育てた鶏は屍の山となる。
借金は嵩み、娘はドラ息子にレイプされそうになる。
それでも父は闘鶏を止めない。
ついに父は耳を切り落とされる・・・(>_<)
闘いの末に待つものは何か。
あらすじだけ読むと、賭け事って怖ろしい。
・・・と集約されそうなんだけど、
もっと深い意味がある。
父と顔役の間には、人間の尊厳をかけた因縁があった。
父にとって闘鶏を止めることは
尊厳を捨てることになる。
母も娘もそれが分かっているから
父を見捨てられない。
死んだ鶏の血、
父が流した涙の味が混ざったような味の短編だった。
ラストが予想外の展開で、
楽観的にとらえるか、
破滅に進むと想像するか。
どうなるんだろう。
作者は今消息不明らしい。
これだけの短編を書く人だから、
また書くはずだ。
新しい作品をまた読みたい。