目次
歌舞伎のライバル対決。
頂上を極めるのは誰か。
ここに2人の歌舞伎役者が登場する。
1人目は、極道の血を引く美少年。
2人目は、上方歌舞伎の御曹司。
この2人は宿命のライバルとして
ともに女形になり、同じ演目で火花を散らす。
どちらが歌舞伎役者の頂点を極めるか。
双方の人生を見届ける大河小説だ。
「国宝」あらすじ
俊介が「花井半次郎」の名跡を継ぎ、
喜久雄は大部屋の役者になるはずだった。
ところが、予期せぬ運命の流れで
「花井半次郎」を継承したのは喜久雄だった。
喜久雄と俊介は敵対するライバルとなり、
同じ演目で競い合うことになる。
少年期から老年までの歌舞伎役者の人生が
走馬灯のように読者の目の前を流れる。
役者の世界の深い絆と軋み、スキャンダルと栄光。
敵対しながらも、積み重なるライバルへの信頼。
観客の歓喜を一身に集め、誰が頂点に登りつめるのか。
頂点に立った時、何が見えるのか。
極上の男子が3人登場。
誰を応援して読むか。
国宝は、男のドラマだ。
主人公の喜久雄、ライバルの俊介、どちらに肩入れして読むか。
主人公じゃないけれど、喜久雄の幼なじみで
チンピラ出身の徳次もハズレ者の魅力がある。
誰に肩入れして読むか。
波瀾万丈のストーリーの中で、贔屓をしながら読むのが楽しい。
主人公:立花喜久夫(花井半二郎を襲名)
主人公喜久雄は、父親の凄惨な死に様から人生が大きく変わり
歌舞伎役者になる。
美貌の女形として、鮮烈なデビューを飾る。
その後、自分の意志とは逆に、
師匠の「花井半二郎」を襲名。
師匠の実の息子であり親友の「俊介」に恨まれる立場となる。
その後不遇の時代が長く続き、一度は歌舞伎界を去り
新派の舞台に立つのだが・・・。
喜久雄に肩入れして読みました。
喜久雄のイメージは「美貌の歌舞伎役者」というところから、
若かりしころの片岡孝夫のイメージを当てて読んでました。
(片岡孝夫は立ち役ですが・・・、女形も綺麗だと思う。)
余談ですが、喜久雄のキャラは
「元禄落語心中」の「八雲」に近いと思う。
こちらは落語の話だけれど。
彼も継ぐつもりじゃなかった「八雲」を襲名して、
孤高の落語家になるわけですから。
ドラマで八雲を演じた岡田将生なら
喜久雄役もはまりそう。
(ドラマの中で弁天小僧の芝居もしてたし。)
岡田将生の喜久雄なら、綺麗だそうなぁ。
ライバル:花井俊介(花井白虎を襲名)
歌舞伎役者の家に生まれ、
父の名跡を自分が継ぐつもりでしたら、
父は喜久雄を跡継ぎに考えているらしい。
ショックを受けた俊介は出奔し、行方不明に。
10年余も消息不明だったが、
実は地方の舞台に立ち続けていた。
芸能会社の重役に見いだされ、
歌舞伎界に大々的に復帰するにあたり、
喜久雄とは宿命のライバルになる。
俊介は、生々しいリアルな演技を身上とする。
夢のように美しい喜久雄とは好対照。
喜久雄は、姫川亜弓タイプで
俊介が北島マヤになる。
坊ちゃんらしい甘えから出奔してみたものの、
地獄を経験した後はガラっと芸風も変わる。
俊介と喜久雄は世間的には宿敵とみられるが
実のところ一番の理解者でもある。
その信頼関係が歌舞伎界の凄いところだと思う。
嫉妬もするし憎みもするが、
根っこでは分り合っている。
ライバルって、そういうものなのか。
歌舞伎の舞台裏をこんなにリアルに書くには
どんな取材をしたんだろうと思っていた。
著者のインタビュー記事を読むと
吉田修一氏は中村鴈治郎氏の厚意で
黒衣を身にまとい、舞台裏からつぶさに観察したそうだ。
芥川賞作家が黒衣として歌舞伎界の裏側を見た 吉田修一の「国宝」
歌舞伎を舞台裏から見て書いたと知り、納得した。
生々しく、面白い小説が生まれる訳だ。
忘れられない3人目の男。
ボディガード:徳次
2人の歌舞伎役者が主役ではあるが、
影の男・徳次の存在も忘れがたい。
極道の息子・喜久雄の幼なじみで、長崎のチンピラだった徳次。
大阪に来てからは、喜久雄を守り抜くお付きの男。
歌舞伎で云えば、裏方・黒子役だ。
ひょうきんで鉄砲玉で
軽口ばかり叩きながらも、
やるときはやる。
夜の街の女性陣にモテモテだけど
独身のまま。
このままずっと喜久雄の側にいるかと思いきや、
意外な道に進む徳次の決断に驚いた。
徳次も自分の花道を作りたかったのだ。
3人の男の一生を少年期から見守ることができた
贅沢な小説だった。
舞台の精霊の言葉を借りたように
第三者目線で語られる文体。
いままでの吉田修一の文章とは全く違う
文章も新鮮だった。
予想を超えたラストシーン
「国宝」という題名のとおり、
ラストシーンでは1人の役者が重要無形文化財保持者に認定される。
ネタバレになるから書きません
人間国宝に認定されて、めでたし、めでたし。
そんな分かりやすいハッピーエンドでは終わらない。
人間の狂気と幸福を併せのむラストに、
呆然としながら読みました。
歌舞伎の一幕のようなラストシーン。
想定外の幕切れでした。
やられました。