目次
北海道で生きる家族3世代。
オルガンの演奏が静かに流れる物語。
松家仁之の小説は、静かで淡々としている。
淡々と冷静に登場人物を描写しながらも、
印象派の絵画を観た後のように
静かに温かい。
彼の小説を読んだ後は、
心が平静になっている。
「光の犬」は、
牧師館の息子「一惟」が弾く
オルガンが静かに
流れる小説だった。
「光の犬」あらすじ
『光の犬』の舞台は、北海道の枝留という小さな町。
この町で3代続いた家族と一緒に暮らす北海道犬が登場人物だ。
祖母”よね”が助産婦として北海島に移り住むことから始まり、
よねは4人の子供を産む。
長男の真二郎は結婚し、2人の子供が誕生。
”歩”と”始”は成長し、
自分の生きる道を模索する。
長女の”歩”は順調に天文学者として
キャリアを重ねていたが、
珍しい癌にかかり、
道半ばで命を落とす。
3人の叔母は独身のまま
隣家でずっと暮らしている。
それぞれ老いて弱りゆく姿を
”始”の目を通して見届ける。
『光の犬』には北海道犬が4頭登場する。
一家の子どもたちの成長に寄り添うように
楽しい時もつらい時もいつもそばにいる。
牧師の息子「一惟(いちい)」がひく
オルガンが聴きたい
光の犬は、群像劇である。主役である添島家以外に
登場人物それぞれの視点から
人生が綴られている。牧師の息子「工藤一惟(いちい)」は、
母の死をきっかけに
東京から北海道の教会へと
父の赴任についてきた。”一惟”の楽しみは
教会のオルガンを弾くことと、
北海道の自然をスケッチすること。
”一惟”は、1人遊びを好む少年だった。
”一惟”のオルガンを聴き、
描いた絵を見て
添島家の”歩”は心惹かれる。
”一惟”は、幼なじみの”歩”と
高校生の恋愛を経験しながら、
将来牧師になるべきか迷っていた。
音楽や絵画に興味があり、
牧師という職業に迷いがあった。
”一惟”は京都の大学で神学を学び、
”歩”は札幌の大学へ。
距離ができることで、
初恋は消え去ったが、
2人の絆は残っていた。
”歩”が難病に罹り、
いよいよ死期が近づいた時、
1つの決心をする。
“歩”は、牧師になった”一惟”に
終油の秘蹟を依頼する。
本来カトリックの儀式である終油の秘蹟を
プロテスタントの牧師は行なわない。
”一惟”はカトリックの神父に特別に習い、
歩に終油の秘蹟を施す。
天文学者らしく冷静だった
”歩”はなつかしい笑みを浮かべ、
最期を迎える。
この小説の
クライマックスだ。
夢かなわず
死期を悟った者への慈しみ。
この小説を読んでいる間、
”一惟”が弾くオルガンが
わたしの耳にはずっと聞こえていた。
もしわたしが死ぬ時に、
こんな風にオルガンの音色が
響いていたら幸せだ。
光の犬=北海道犬の愛らしさが
犬好きの心をキュンキュンさせる
北海道犬は、
アイヌ民族が飼育してきた大型犬。
寒さに強く、狩猟に適している。
性格・性質は、飼い主に忠実、勇敢、大胆、
怖いもの知らず、野性味が強い、
我慢強いと言われている。
添島家は北海道に移住後に
北海道犬を飼い始める。
イヨ、エス、ジロ、ハルの
4頭の北海道犬が
北海道の自然の中で
たくましく駆け回る。
北海道犬の強さ、忠実さが
家族の暮らしの中で
自然に浮かびでて、
犬好きの心をキュンキュンさせる。
狩猟犬を飼うなんて、
夢の夢ですが・・・
狩猟犬はキリッと健気でかっこいい。
このお話を読んでいる間は、
わたしも北海道犬といっしょに
枝留の町で育った気持ちになりました。
犬が主役ではないけれど、
北海道犬は、
この物語に欠かせない名脇役だった。
光の犬をもし映画化するなら・・・
”歩”と”一惟”はこの2人がいいな。
天文学者への道半ばで
命を落とす”添島歩”として、
若い頃の深津絵里を
思い浮かべながら読んでいた。
お転婆で気丈で、
北海道犬をこよなく愛し、
天文学者として活躍する姿が
わたしの脳内ではハマり役だった。
もう1人の主役、
工藤一惟は、坂口健太郎に
ぜひ演じて欲しい。
オルガンの演奏が信者の心をうつような
物静かな牧師役・・・絶対似合う。
実際は、年齢がちょっと違うから
実現は難しいだろうけれど、
脳内では役者さんの年齢設定は自由自在だ。
松家仁之の小説の静謐さを
映像にするのは
困難かもしれないけれど、
大自然と北海道犬の美しさを
大画面で観てみたい。
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